泥棒を逃がして警察に怒られた話

*『あなたの奥さんを車ではねた!』

その当時、妻は長男を出産後1カ月ぐらいで、

市内にある妻の実家に里帰りしていた。

私は会社の昼休みには、近くの借り上げ社宅(2階建てアパート)に、

昼食を食べるため、出勤日の昼にはいつもそのアパートに帰っていた。

外付けの鉄製階段を駆け上がって、

奥の部屋の扉を開けようとドアノブに手をかけた瞬間、

中から扉が開いて人が出てきた。

作業服を着た中年の男は、

『すみません!

あなたの奥さんを車ではねた!』

『えー!』

私は頭の中が真っ白になると同時に、

血まみれになった妻と幼子を想像してしまった。

男は

『そこに救急車が止まっているので一緒に来てください!』

『奥さんから、

ご主人が昼休みにはアパートに戻ってくると聞いたので、

家の中で待っていました。』と言いながら、

走り去って行った。

 

私は階段を急いで駆け降りる男の後を追いかけた。

アパートの下に降りて、

周辺を探したが、救急車も

男もいない。

『何なんだ。』

キツネにつままれた感じのまま部屋に戻る。

部屋が荒らされている。

その時やっと泥棒に入られたことに気づく。

なんとも間抜けな話だ。

玄関の奥にある居間の戸棚が荒らされていて、

物が散乱している。

110番通報した。

 

警察が来るまでに、妻の実家に電話し、

妻子の無事が確認できた。

盗まれたものがないか調べたが、

無くなった金品はないようだ。

 

警察の取り調べがあったが、

内容はあまり覚えていない。

担当の警察官に、

玄関先で男と鉢合わせした時の顛末を話すと、

『空き巣の常習犯やね。

交通事故の話で驚かせ、

煙に巻いて逃げたな。』

そして、別の刑事らしき風貌の年配から言われた。

『おしかったぁー。』

『ご主人、

どうして捕まえなかったんですか!』

 

(そういわれても、「間抜けな私」にはとても無理な注文であった。)